シあわせ  苦しい。  苦しい。  息ができない。  ああ。  鼓動が止まってしまう。  いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。  まだ死にたくない。  ダメだ。  止まらないでくれ。  ああ。  やだ。  そんな。  止まってしまう。  終わってしまう。  もう……。  彼女が俺を見ている。  可愛いなあ。  手、温かいなあ。  友人は……泣いている。  泣くなよ。  おまえなら、こいつを幸せにできるさ。  ああ。  嫌だなあ。  死にたくないなあ。  でも、  幸せだったなあ。  ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。 「おい。嘘だろ。冗談はやめろよ」  耳障りな音が頭を突き刺す。  隣では、さっきまで笑顔を浮かべていた彼女が震えている。 「なんだよ。どういうことだよ。おい……」  ダメだ。  ダメだ! ダメだ! ダメだ! ダメだ!  こんなの認められない。  こんなのあっちゃいけない。  こんなの……。 「おい!」  起きろよ!  目を覚ませよ!  ああ、ダメだ。  涙が……。  涙がこぼれてしまう。  ダメだ。嫌だ。  この気持ちがこぼれてしまう。  この気持ちがなくなってしまう。  まだなんだ。  まだ、なんとかなる。  なんとかなるから!  時間よ。  行かないで。  ここで泣いてしまったら。  動いてしまう。  消えてしまう。  まだ大丈夫だから!  なんとかなるから!  軌跡でもなんでも、  こいつはまた笑顔を見せて、  話し始めて、  だから、  僕は泣かないから。  気持ちを忘れないから!  だから……。 「そんな顔しないで」  え?  彼女が目を赤くして、ぼろぼろの顔で笑っている。  なんだよ、それ。  なんなんだよ。  ダメだろ。 「笑顔で見送ってあげて」  そんな……。  そんな……。  あれ?  ダメだよ。  こぼれるなよ!  戻せなくなる。  取り戻せなくなっちゃうだろ!  やだよ。  帰ってきてよ。  もう一度何か言ってよ! 「○○くん」  だから、ダメだって……。  彼女の手は温かくて、君の手は冷たくて。  現実が……。  嫌だ。  受け入れたくない。  入ってくるな。  入ってくんな! 「○○くん!」  そんなの……。  ダメだよ。  ダメだっていうのに……。  彼女が僕を見てる。  笑っている。  真っ赤な頬をぐしゃぐしゃにして。  僕と君の手を強く握りしめて。 「う、うう……」 「お願い」  ああ、ダメなんだ。  そんなに僕を追い詰めないで。  胸が軋んで痛い。  痛いよ。 「ああ、ああああ、あああああああああああああああ!」  心の隙間から感情が漏れていく。  涙が溢れていく。  もう止まらない。  止められない。  ごめん。  本当にごめん。  時の止まった彼を置いて、僕の時が進み始める。  僕はそれを見ていることしかできない。  距離が離れていく。  僕は別れの言葉を言おうとして、君との過去を遠くに見る。  そして、君と彼女の手を握りしめて言った。 「今まで、本当に、ありがとう……」  そこまでが限界で、涙と嗚咽で言葉はもう続かなかった。  だから、最後の言葉だけは心の中で、君だけに伝えることにした。  さようなら。親友。