空 正面から背後へと 疾風が駆け抜ける 眼下にはモザイクのような街並みと それらを所々覆い隠す白い雲 足元には ただ組み上げられただけの赤い鉄骨群があり その最上部 一本だけ張り出した細長い鉄骨の上に僕はいる 鉄骨の幅はやっと歩ける程度だが その風通しの良い赤いラインの構造物は 風を無視して存在している ふと前方に視線をやれば ゆるやかに曲がる水平線が広がっていた 風が流れている 冷たく 強く そして止むことの無い風 僕は両手を広げ 目を閉じる 風の流れを身体全体に感じながら その音に耳を澄ました ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ ゴォォォォォォォォォ 決して繰り返されない一度きりの音 生まれては消えていく儚い存在 飽きることのない世界の鼓動が 身体を通して僕の内側へと染み渡っていく 僕は目を閉じたまま 自然と一歩を踏み出す こんなにも風は強いというのに 僕の足取りは落ち着いていて 何も見えないというのに まったく不安を感じない 心地よい向かい風 それだけで十分だった 僕は歩みを止める ゆっくりと目を開ければ そこには世界だけが広がり 世界と僕とが対等であるという事実を再認識する 風はより確かなものとなり 僕の中へと流れ込んだ 高鳴る胸の鼓動 今にもあふれ出しそうな感情 それらを逃がさないように 僕は空へと踏み出した