『カラスと缶コーヒー』  早朝の肌寒い空気の中、目の前を何台もの車が通り過ぎていく。  僕は、手にした缶コーヒーの温もりを感じながら、コンビニの駐車場で溜息をついていた。  隣では黒ずくめの鳥たちがギャーギャー鳴きながらゴミを漁り、時折、大きな翼を広げては、そのザラついた羽音で僕を苛立たせた。  なぜ、こんな事になってしまったのだろう。 (……済まない……)  ふと浮かんだ親友の言葉には、きっと幾つもの想いがあって、でも、そこに僕の望んだ答えは無いような気がした。  自分の答えはどこにあるのか。彷徨う思考は脳裏でぐるぐると渦を巻き、どれも深遠の闇へと落ちていくばかり。その繰り返しが生み出す引力に、意識さえもが吸い込まれていきそうだった。  ピーンポーン。  そんなまとまらない思考を断ち切ったのは、やる気のなさそうなコンビニのチャイムだった。  自動ドアが開いて出てきたのは一組の男女で、女のほうは栗色の髪をツインテールにした小柄な少女、そして男のほうは、上下を黒いレザーでまとめた長身痩躯の……。 「琉史?」  思わず呟いた言葉に男は振り返り、そして、いきなり笑い出した。 「なんですか! いきなり笑うことないでしょう? こっちは凄く心配したんですよ?」 「悪い悪い。いやー、まさかこんなタイミングで見つかるとは思っていなかったからさ」  笑いを堪える琉史の隣では、少女が首をかしげてこちらを窺っていた。 「ん? この子か? 俺もさっき会ったばかりで名前も知らないんだが、変な奴等に絡まれててな」  少女がペコリと軽く頭を下げると、それにつられて長いツインテールが宙にきれいな弧を描いた。それは朝日に照らされて、金色の翼のように柔らかな光を放っていた。  しかし次の瞬間、少女の髪に見とれていた僕の横を、生臭い風とともに黒い影が通り過ぎた。影は少女へと襲いかかり、少女は驚いて逃げ出した。今まさに大型トラックが向かってくる道路のほうへと。 「危ない!」  そう叫んで彼女の腕を掴んだ僕は、振り向いた彼女が何か呟いたのを見た。その小さな唇から紡がれた音は叫びのようであり、しかし、どこか懐かしい歌声にも感じられた。  そして気がつけば、世界は完全なる静寂に包まれていた。