『Moon Diver』  冷たい光が揺らめいている。  音はなく、自分という感覚さえも曖昧だった。  私は、死んだのだろうか。 (何故?)  ふと浮かんだ疑問は、答えを与えられることもなく闇の中へと落ちていった。  目蓋は異様に重く、考えは思うようにまとまらない。気怠い感覚だけが私を支配し、何もかもが曖昧で、鈍く、そして緩慢に停滞している。  気泡のように形の定まらない言葉ばかりが脳裏には浮かび、しかし、そのどれもが揺らめきの中へと溶けては消えていった。 (……ミカ……)  聞き覚えのある声でさえも断片的で、理解できない。わからない。ワカラナイ。  私の目蓋は、私の意志とは関係なくゆっくりと閉じていく。闇が迫ってくる。闇が私を取り囲もうとする。緩やかに、しかし確実に私の意識は閉ざされようとしていた。  落ちていく。静かに落ちていく。為す術もなく落ちていく。 (……済まない……)  それは誰に向けた言葉だったろう。ゆっくりと浮かんできた想いは、何故かとても温かかった。そして、心が張り裂けそうなほどに痛かった。  このままではいけない。そんな気がして、私は目を開けた。目の前には朧気な光しかなかったが、それでも手を伸ばした。届かない。でも手を伸ばした。自分の身が引き裂かれても、そうしなければいけなかった。 (気にしないでください)  そうじゃない。そんな言葉が聞きたかったわけじゃない!  私は自分を縛り付ける力を、纏わり付くような闇を振り払う。  叫ぼうとして開いた口からは幻想が音を立てて溢れだし、その隙間を埋めようと現実が流れ込んできた。  私は、もがきながらも光へと何度も何度も手を伸ばす。そのたびに光は砕けて形を失った。でも、消えることはなかった。  勢いよく水を掻き分け水面へと顔を出すと、なぜか女性の短い悲鳴が聞こえた。  その声へ目を向ければ、そこには一人の少女が立っていた。  少女は月明かりを背にして、私をじっと見下ろしていた。  優しく吹いた夜風は彼女の細く長い髪を煌めかせ、私は誰かの名を呼ぼうとしたが、声にはならなかった。